2025年06月25日
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Placul(プラカル)は、日常業務において個人とチームを支援するタスク管理(またはシンプルなプロジェクト管理)機能を備えていますが、この機能と連携するOKRが実装されており、この点がPlaculの他のチームコラボレーションツールにはない大きな特徴のひとつとなっています。これは、ユーザーの皆さんの「個人の成長促進」を実現するために実装したものであることを、以前のコラムでご紹介しました。
OKRは、Objectives and Key Resultsの略。OKRの標準的な日本語訳はないため、国内でも多くの人が「オーケーアール」と呼んでいます。Objectivesは「目標」「達成目標」、Key Resultsは「主要な成果」「成果指標」あたりが日本語訳だとするなら、OKRは「目標と、その達成のための主要な成果」という意味になります。
国内には、組織へのOKR導入についてアドバイスする人事の専門コンサルタントが少なからずいます。こういったOKRに詳しい人事専門家から聞いたOKRに対するよくある誤解や、OKR導入に向いている組織とそうでない組織について本コラムではご紹介します。
はじめに、OKRとは何か?を人事専門家に尋ねてみると、「組織として目標を達成するための組織マネジメントの仕組み」という堅い回答になります。OKRは組織マネジメントと人のマネジメントの仕組みだということです。よく「OKRは評価制度の種類」だということで、目標管理制度としての側面もよく強調されますが、人事専門コンサルタントは、OKR=人事評価制度の仕組みではないと考えたほうが良いといいます。OKRは確かに目標管理制度の一種類ではありますが、あえて目標管理制度と理解しないほうが正しく理解でき、詳しくなれるということです。
OKR導入組織には、人事評価制度とOKRを連動することで、目標設定の目線を上げるという目論見があるといいます。達成が難しそうなストレッチした目標を立ててもらい、皆さんにチャレンジさせたいという仕組みだと理解しているケースもあります。これはこれでうまくいっている事例もありますが、実はOKRの一側面にすぎません。人事の専門家としてはOKRをもっと多面的にとらえて、導入組織の目標達成に役立つように活用することを提案しているといいます。
OKRのO、すなわちObjectivesというのは、「中期的な目標や目的」として、少し抽象度の高いシンプルに設定された目標のことだと理解すると良いでしょう。この「中期的な目標・目的」を達成するに当たっての重要な結果指標(Key Results)を組み合わせて、組織やチームで共有し、モチベーション高く、各個人の主体性に根ざして目標を追いかけていく。この活動がOKRということになります。これが「組織として目標を達成するための組織マネジメントの仕組み」たる所以です。
OKRは目標管理制度ではないかと思われがちですが、OKRのO、すなわちObjectives設定が他の制度とは異なります。Objectives設定について、比較的モチベーション向上につながるように、シンプルに抽象度を高く設定することで、自分たちが「なぜそれを追いかけているのか」とか「何を実現するために活動しているのか」を組織内、チーム内で共有することがOKRでは重要です。
その意味で、「目標管理」というより「目的管理」に近い考え方ともいえるでしょう。一般的に目標管理では定量的な位置や数字を重要視しますが、目的管理は正しい方向に向かっていることを確認するというイメージです。もちろん、OKRで具体的な数字を設定してはいけないということではありませんが、人事専門家から見ると、Objectives設定では少し抽象度を上げた方が組織内の理解度が高まり、「このためにやりましょう」という雰囲気が醸成され、個々人の行動につながるようです
OKRの本質を理解する上で、 MBO (Management by Objectives、目標管理制度)と比較してみるということが役に立ことがあります。MBOとは、従業員が組織目標と関連付けた目標を設定し、その達成度合いで評価を行うマネジメント手法です。OKRの導入目的は、前述の通り目標の共有化やモチベーションアップを目指しています。
実はMBOも元々は個人のモチベーションアップを目的として導入されたものでした。ただ、実際に組織に導入されているMBOは、人事考課に使われているケースが圧倒的に多いので、成果に基づいた評価をしていくために「目標に対してどれだけ頑張ったか」という指標を運用しています。現実に運用されているMBOの場合は、目的が少し違うものが2つ組み合わせられているというのが実態だと言えます。MBOについては目標管理制度ではあるものの、現実的な「評価制度である」と理解されている組織が多いのは事実です。
OKRとMBOの大きな違いのひとつ目は「運用単位」です。現実のMBOは「個人単位」で運用されており、本人と上司で話し合って、今期の目標は何にしようかを決める運用が圧倒的に多いです。一方でOKRは「組織マネジメント」のために導入しますから、チームでいかに目標を共有していくかというのが大事となり、必ずしも目標を「個人単位」まで展開しなくても利用可能な仕組みになります。全社とか、事業部やチームといった単位の目的・目標設定で使うものだということです。チームのOKRを追いかけていく中で、自分自身が個人として何をするかは当然設定しますが、OKRそのものを個人単位まで分割しなくても十分に機能します。
OKRとMBOの大きな違いの2つめは「目標達成率の想定値」です。MBOは、基本的には目標というのは100%達成するものとして設定します。ミッションを100%達成し、評価制度の個人評価につながるといった感じの設定するケースが多いです。 一方でOKRは目標の達成ライン60~70%を目指します。このOKR目標は、どう考えても簡単に達成できない。それでもチームのみんなでそれを追いかけることでワクワクするような高い目標を設定するのが特徴です。高い目標なので、現実には達成率が7割程度になってしまうというイメージです。こういった前提で運用するので、100%達成を想定するMBOとは異なることが分かると思います。目標設定において、100%達成を前提としたMBOだと、どうしても「堅実な目標」になりがちですが、OKRはもっと自由に冒険的な目標も設定可能だということです。
OKRとMBOの違いの3つめは「目標達成チェックのタイミング」です。一般的にOKRとMBOの達成チェックタイミングを比較すると、OKRのほうが短めに設定されるケースが多いのが現実です。週一回程度の頻度で1 on 1やミニセッションの形式で進捗を互いに共有して「次はこれやろうか」といった確認する運用です。一方、MBOは個人で目標設定しているため、個人個人で半期や四半期で上司とのレビューや振り返りを行うのが一般的です。週一回程度の頻度でチェックを行うOKRと比較すると、MBOの目標チェックタイミングは長くなります。
このように違いのあるOKRとMBOは、それぞれメリットがありますから、それを理解したうえで導入すると効果的です。OKRの最大のメリットは「組織文化を創っていく」ためのツールになり得ることでしょう。主体的に高い目標をみんなで追いかける組織をつくるためにはMBOよりOKRが向いています。MBO は単位が個人ですら、セルフマネジメントの環境を推進できるメリットがあります。自発的な目標設定で個々人のスキルアップを狙いたい組織はMBO導入が向いていると言えるかもしれません。
導入企業のOKRとMBOを見てみると、MBOは人事考課を結び付けた形式で既に多くの企業で導入されています。OKR導入企業の例では海外ではGoogle、国内ではメルカリ、freeeといったベンチャー企業とかメガベンチャーで多く運用されています。最近は、花王のような歴史ある企業でも導入が進んでいます。
人事専門家によれば、OKRが向く組織と向かない組織があると言います。
まず、OKRが向いているのは、マネジメント層だけではなく現場層も含めてサービスの新規開発や新規事業の開拓をする組織です。こうした組織には、市場適用のスピードや、クリエイティブな要素が求められます。OKRが効果的に活用されるのはこういった組織だと言えます。OKR導入企業例ででてきた IT関連企業やスタートアップベンチャーはこうした組織の代表格ですし、昔ながらの業種でも、業界的に変革期に来ている場合はOKRに向いていると言えます。
一方、OKRが向かない組織は、例えば数字のコミットメントがキッチリ求められている運用をされているところです。代表的なのは営業組織になります。こうした組織がOKRを設定していても、結局はコミットした数字をしっかりと追いかけて達成することが最も重要ということになります。日々の組織運用も、ストレッチしたOKR目標を7割達成することより、コミットした数値目標を堅実に達成することを求められるため、OKRがあまり効果を発揮しないことになってしまいます。
もうひとつ、市場の環境変化が少ない中で、安定したオペレーションを着々と進めていくことが最重視されるような組織にもOKRは向いていません。OKR以外の仕組みのほうが効果的な場合が多いです。既存の運用を淡々とミスなくやっていれば伸びるとか、既存の本業をオペレーショナルに改善することが重要な組織にはOKRは向いていません。
こうして考えると、例えばひとつの会社の中に新規事業の立ち上げ組織と、本業である事業を少しずつ品質改善する組織が混在する場合に、OKRについて向き不向きの組織が混在することになります。この場合は、新規事業の立ち上げ組織のみにOKRを導入するほうが効果的です。
組織の特徴によってOKRの向き不向きがあったとしても、目標管理やモチベーション向上策が必要であることは明らかです。人事専門家によれば、OKRをうまく使い分けることで目標管理にも適用できるといいます。前述の通り、OKRについて向き不向きの組織が混在している場合、向いている組織のみにOKRを導入するというのもひとつの方法です。
MBOとOKRの二択と考えるのではなく、MBOにもOKRにも運用の幅があり、そこを見極めて自分の組織に導入するという方向で考えるとうまくいくケースが多いです。MBOは日本企業に評価制度として導入され始めてから20年経過しており、それぞれの現場では工夫しながら様々な運用の仕方をされています。この現場の工夫の歴史を見ると、MBOとOKRの運用の幅についてイメージがつかめると考えます。
初期のころのMBOは「個人のモチベーションのため」ということで、個人でかなり自由に目標を設定する組織が多くありました。ところが、個人のスキルアップやモチベーション向上には役立ったものの、その組織の評価制度と結びつけて導入されてしまったことにより、結局うまくいかなくなった組織が数多く見られました。「目標を設定して頑張ったが、最後はまったく違う観点で評価されてしまった」という状態です。評価制度として結び付けない個人目標設定方法としては有効ですが、評価制度としては使えませんでした。
こうした初期のころのMBO導入の反省で、次に全社目標から部門目標にしっかりブレイクダウンしていくタイプのMBO運用に変更されました。全社目標から部門目標、部門目標から個人目標にブレイクダウンされるため、目標管理としての納得性は大幅に増した運用だと言えます。ところが、現実にやってみると目標を細分化するのが極めて難しく、目標設定そのものに苦労された組織が多くありました。現場マネジャークラスの「目標設定能力」に大きく依存してしまっていたり、全社から部門、個人への目標ブレイクダウンに2か月程度の時間がかかったりのしたのがこのタイプのMBOの欠点でした。もちろん、既存のオペレーションがあり、最初から部門のKPIなどが明確で、それを個人目標に簡単に分解できる業務もあります。こういう組織にはこのタイプのMBOが向いていますが、例えば新規事業のように数カ月で目標そのものが変化する場合には運用が難しいものとなります。
その次に、全社目標から部門目標、部門目標から個人目標にブレイクダウンするMBO運用に対して、「ある程度プラスの要素も加味しましょう」という運用も登場してきました。ブレイクダウンされた個人目標が「コミット目標」だとすると、それに対してもう少し冒険するような「チャレンジ目標」を設定するようなMBO運用です。このMBO運用では、個人がチャレンジした分はプラス評価となるケースが多いです。このチャレンジを「ストレッチ」に置き換えるとOKRととても似てきます。ベースはMBOによる評価だけれども、OKRの要素を少し組み込んだ「良いとこ取り」の目標管理ともいえます。コミットした個人目標を管理するだけでなく、チャレンジした部分も評価したいという組織には向いている方法でしょう。
これが、MBOとOKRの運用の幅を利用した目標管理の考え方となります。組織として個々人にはコミットした目標を達成してもらいたいけれども、同時に頑張ってチャレンジもしてもらいたい。コミット部分をMBOの個人目標、チャレンジ部分をOKRによるチーム目標として利用することで、こういった目標管理の仕組みをつくることができるでしょう。
「OKR=人事評価制度の仕組みではないと考えたほうが良い」とはいえ、労力を使って運用するからには、どうにかして人事評価と組合わせたいという話になります。人事専門家の正直な意見としては、「OKRの性質を考えたときに、人事評価との組合わせは基本的には勧めない」とのことです。ただし、OKR運用の目的によって、2つのやり方があるといいます。
ひとつめは、「組織文化を創る」ためにOKRを導入するケースです。この場合、MBOとはしっかりと切り離すことです。OKRとMBOは別建てで運用して、人事評価はMBOで実施し、組織文化づくりをOKRで行うという方法に徹したほうが良いでしょう。OKRとMBOで設定目標が一部重なる場合も当然出てきますが、その目標の達成目的がそもそも異なるので、重なっても運用には支障ありません。
ただ、評価にはMBOしか使わないとなると、OKRの目標の優先順位が下がるというリスクが当然出てきます。OKRの目標設定は、その内容がワクワクするものであるとか、自分たちのモチベーションのために中長期的に設定したものであるという環境をつくれれば、OKR目標にチャレンジしながら組織が求めるMBO目標達成に向かって努力するという状態もつくれます。OKRとMBOの使い分けを明確にすることで、OKR優先順位のリスクをなくすことが可能となります。
ふたつめは、「チームのスキル向上」のためにOKRを導入するケースです。OKRのO(Objectives:中期的な目標や目的)を達成するに当たっての重要な結果指標KR(Key Results)に最も貢献した人を評価して報酬配分したいということが考えられます。ただ、このときにKRの達成度をそのまま報酬に反映してしまうとMBOのコミット目標と同じ意味になってしまいます。こういう場合は、OKRを含めた業務への取組み姿勢や、パフォーマンスを「別軸から間接的に評価」するという運用をするのが良いでしょう。OKRの運用にどれだけ貢献したかを評価することをお勧めします。
チームのスキル向上が目的ですから、そこへの貢献を評価の中で考えると良いでしょう。定量化が難しければ、少し定性的な評価でも構いません。既に「バリュー」を利用した人事評価をやっている組織であれば、貢献度の定性評価とは相性が良いと思われます。
ここまでがOKR運用の目的別のやり方2つのご紹介です。あとは前述した通り、コミットする必達目標とチャレンジするストレッチ目標を2つ設定して、前者をMBO、後者をOKRで導入し、ストレッチ目標についてはプラス評価として反映する方法があります。
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データ・アプリケーション Placulマーケティングチーム |
経歴・実績 株式会社データ・アプリケーションは、日本を代表するEDIソフトウェアメーカーです。設立は1982年、以来EDIのリーディングカンパニーとして、企業間の取引を円滑に効率化するソリューションを提供しています。1991年からは日本の標準EDIの開発やSCM普及にも携わっており、日本のEDI/SCM発展に寄与してきました。現在は、EDI/SCM分野のみならず、企業が所有していデータの活用についてもビジネススコープを広げています。ハブとなるデータ基盤提供を始めとして、さまざまな角度から幅広く研究・分析を行っており、その提言を通じて企業のDX推進を後押ししています。 |